Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

ためらいもイエス

「ためらいもイエス山崎マキコ

 

主人公の奈津美は28歳で、都内のテクニカル翻訳のベンチャー企業に勤めている。ベンチャーといっても金はあるようで、高層ビル内に入居していて、他の部署の社員になると名前も知らないくらいの人数はいる。奈津美は翻訳を行っており、かなり仕事ができるほうで、徹夜も休日もいとわない。処女である。

奈津美は三姉妹で「富士、鷹、なすび」と呼ばれた真ん中である。富士の姉は日本最難関の大学に入り、大手のシンクタンクに入社した。数年で辞めて、今では一軒家を知人の女と3人でシェアして暮らしており、同人誌の漫画を描いて生活している。今は同人誌でもコミケなどで売れるから、そこそこの会社員程度の収入はある。美少女だった姉が33歳になり、座り仕事で贅肉が付き始めて中年女になりつつあるのを発見したとき、奈津美は危機感を覚える。このままでよいのか。彼女は母親からの見合いに応じるとともに、後輩の青ちゃんの助けを借りて社内合コンにも挑む。

見合いの相手のギンポ氏は、江戸前てんぷらのギンポのような顔をしている。妙にすべてをわかったような口ぶりで不思議な人である。奈津美のどんなわがままにもハイハイと応じてくれる。アドバイスは的確である。

社内合コンでは二人の男性と知り合う。

桑田氏は、社内のトライアスロンのグループのまとめ役で、面倒見がよく、明るい性格である。社内の他の女性と付き合っていながら、奈津美をしばしば誘う。奈津美も応じて(しかし肉体関係は寸前で思いとどまる)当然に修羅場になる。彼女は、自分は相手の気持ちを知っていて、それを利用してもて遊んだのだ、と自分を責める。

中野さんは35歳で、優秀なエンジニアであり、年収1500万という噂がある。トライアスロングループの年長で身体を鍛えている。グループで飲みに行くと、皆の分をおごってしまう。酒の飲み方が破滅的である。奈津美は、中野氏がお金で交友を買っていると見抜いて、この人の寂しさを埋めてあげたいと願う。桑田氏は友人だが、中野さんには異性として恋をする。彼女は中野氏に告白するが、中野氏は最終的に彼女をふってしまう。彼は、厳格な祖母に育てられ、自由を渇望して育った。誰であれ、束縛されるのは嫌だという。奈津美は、自分自身が(姉妹全員が)母親から厳しく育てられ、性をけがらわしいものとして教え込まれてきたことを思い、他人を支配しようとしたことに気が付いて自暴自棄に陥る。自分を徹底的に痛めつけたいと思った彼女は、行きずりの中年男のナンパに応じて処女を捨てる。

やがて会社が外資系が買収することになったが、奈津美は自分を首にして他のメンバーを救ってほしいとオーナーに掛け合う。あらたに自分のペースで生きていこうと決めた奈津美を変わらずギンポ氏が見守っている。。。

 

私見ですが、別に28歳(作中では誕生日を迎えて29歳になりますが)で処女でも問題はないと思う。ちなみに、童貞であっても同様である。やがて魔法使いになるはずだ。

なんというか、めぐりあわせの問題もあるだろうし、人生における優先順位は人それぞれであるから、処女だの童貞だのといって人格を否定するような言説は考え物である。得手不得手でいえば、処女だとか童貞だとかは、逆上がりができないのと、大した違いはないと思う。もともと不得手な人もいるという意味で。ただし、恋愛が人間的な成長につながる機会になりやすいのは事実だろうと思うし、だからこそ小説にもなる。それに、どういうわけか28歳処女が恥ずかしいという世の同調圧力があるのも事実だと思う。

 

評価は☆☆。なかなか、面白かった。登場人物の造形がリアルである。受験勉強で「青春」をしなかった主人公が30歳を目前にそれを取り戻す、その過程で多くの人を犠牲にするという話である。ご存じのように、青春はそういう残酷な犠牲がないと成り立たないから、そこがリアルなのである。

 

作中で、奈津美が中野氏に告白するとき「私と付き合ってください」という。恋愛経験のない奈津美らしい、ストレートな告白だ。

個人的な話だけど、私がある女の子から告白されたときのことを思い出した。彼女は新卒2年目で、この小説の主人公のように毎日遅くまで働いていた。私も遅かったので、たまたま一緒に飯を食っていたら「私と一緒に寝てください」といった。さすがに冗談だと思って笑ってやり過ごしたのだけど、そうではなかった。で、そうなったあとに、なぜあんな大胆なセリフを吐いたのかと聞いたら、私はあまりそういう経験がないから、どういえば良いか思いつかなかった、といった。たしかに、あまり経験がなかった。そんなことを、ふと思い出した。ま、どうでもよい話である。