Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

神さまを待っている

「神さまを待っている」畑野智実。

 

主人公の愛は26歳で、都内のマアマアのマンモス大(たぶん日大?)を卒業したものの就職活動に失敗し、文具メーカーで派遣社員をしていたが、そこで派遣切りに遭う。

もともと収入の少なかった彼女はたちまち困窮し、身の回り品だけをスーツケースに詰め込んでアパートを出て、マンガ喫茶で寝泊まりする生活を始めた。彼女はホームレスになったわけだ。

実家は静岡だが、母は亡くなっており、家を出ていた父は後妻を連れて戻ってきたため、彼女の居場所はなくなった。父は、娘に一切の援助をする気がない。

不安定な日雇いバイトを始めた愛だが、仕事は不定期でかつ低収入、周囲と話も合わずに孤立する。そんなとき、同じマンガ喫茶で寝泊まりする同年の女子の紹介で、出会い喫茶の存在を知る。

女の子はお茶もお菓子もタダ、座って男性客の指名を待つ。指名されれば、店外に出てデートする。茶飯と言われる、一緒に喫茶店に行ったりカラオケしたりする場合がだいたい3000円くらい。ワリキリと呼ばれる売春をすると15000円くらいが「相場」なのだ、と教わる。

愛は、どうしてもワリキリは出来ないと考えて、茶飯だけをやることにする。1日3人の指名があれば9000円になる。派遣バイトよりも遥かに効率が良い。

しかし、やがてはそんな客も「一巡」してしまうと、指名が減ってくる。ワリキリはできない子だとわかった客が、指名をするのを避けるようになるからだ。

そのため、愛はふたたび困窮しはじめる。そんなとき、熱心に愛の指名を続けている30すぎの男が熱心にホテルに誘う。愛に新しい服を買ってやり、3000円のパフェを食べ、カットサロンに行かせてやり、新しい靴を買って「かわいい。好きだ」という。

愛は、こういう誘いもこの人が最後かもしれないと思い、タイプ的にも嫌いではなかったので、ついに一緒にホテルに行くことを了承する。

そこで、男は豹変する。。。

 

読んでいて、胸が痛くなるようなシーンが連続する。主人公だけでなく、主人公の周囲で同じく出会い喫茶で働いている子たちの背景も、切なくなるほどだ。そして、愛が言うように、中途半端な同情で手を差し伸べるのは良くない。ちゃんとした対応をしてもらうと、自分の今の立ち位置がいかに惨めであるかを、改めて思い知ることになるからだ。。。

評価は☆☆。

これは、現代のプロレタリア文学である。

 

日本では、正社員の解雇がたいへん難しい。派遣社員のニーズは、そのために発生している。雇用の調整弁になるからである。業績が下降しても、派遣社員を首にできるから、正社員の雇用は守られるという仕組みだ。

企業価値的に考えれば、解雇が自由な派遣社員の価値は正社員よりも高いはずである。しかし、現実には、彼らの給与は低い。その差額は、派遣会社が吸収してしまう構造になっている。「派遣される側」に回ったら負けで「派遣する側」に立てば勝ちなのだ。

そういう競争が構造としてあり、自由経済の帰結として、勝者である派遣会社が儲かり、敗者の派遣社員は使い捨てになる。すべては自己責任なのだ。

これが、この社会の実相なのである。

 

こんな実情を、なんとかしようと考える人達もいる。しかし、彼らの活動が奏効するケースは少ない。こんな実情をなんとかしようとする人たちは、ほんとになんとかしたいわけではなくて、「なんとかしようとする自分が好き」なだけだからだ。

すべての人は、幸せになるために生きているので、「なんとかしようとする人」たちだけが、その権利を放棄して他人に仕えろという考えはおかしいだろう。

だから、結局、どうにもならない。

 

私だって、自分のことすら、どうにもならないのだ。