「竜は動かず」上田秀人。副題「奥羽越列藩同盟顛末」。
「奥祐筆秘帳シリーズ」の上田秀人の長編である。題材は、明治維新で佐幕派となった奥羽越列藩同盟の立役者の一人、玉虫左太夫である。
玉虫は仙台伊達藩の下級武士の次男坊で、幼いころから優秀と言われていたが、次男であったので同じ下級武士の荒井家に婿入りする。そこで女の子をもうけるが、妻が産後の肥立ちが悪く亡くなってしまう。これで自分は用済みと判断した玉虫は、荒井から玉虫姓に復するとともに脱藩し、江戸に向かう。学問で身を立てる志を果たすためだ。
さんざん苦労しながら昌平坂学問所の林家の下男として雇われることに成功し、そこで庭の掃除をしながら漢詩を吟じて主人の目にとまることになる。そこから昌平坂学問所で学ぶことができるようになり、やがて勝海舟の知遇も得て、幕府の遣米使節団に加わることができた。アメリカと、帰路にアジア各地を回ってきた玉虫は、攘夷などは圧倒的な力の差があって無駄だと悟る。その一方で、身分制度のない自由なアメリカにあこがれる。
玉虫が帰国してみると、日本は薩長の攘夷派と幕府の開国派で大揺れしており、玉虫は藩命を受けて京都でこれらの動きをさぐる。その中で、坂本龍馬と知り合いになる。急激な改革は混乱を生むと坂本に忠告する玉虫だが、坂本は薩長同盟を成立させたことで、何者かに暗殺されてしまう。
伊達藩に戻った玉虫は、攘夷などは無謀であり、幕府につくべきと意見する。京都守護役の会津藩の松平容保が罷免され、薩長に朝敵呼ばわりされたことに怒った奥羽列列藩は同盟して佐幕につくことになるが、ここで玉虫は実務方として活躍する。
が、そこは寄せ集めの集団であり、さらに薩長の新式装備にまったくかなわない。各地で敗北を続ける列藩同盟からは、続々と脱落者が出ることになるのだった。。。
奥羽列列藩同盟は日本史でちょっと習うが、詳しいことは不肖にして知らなかった。よって、玉虫左太夫の名を聞いたのも初めてである。たいへん興味深く読んだ。
評価は☆☆。
さすが上田秀人。本格歴史小説を書かせても一流である。
私は前職の時に、日本各地に出張して仕事をする機会に恵まれたが、もっとも人柄の良い地域は東北であった。これは、間違いないと思う。それだけに、うまく立ち回るのが下手な人も多いと感じた。東北新幹線ができて、東北は飛躍の機会をつかんだと思われるが、実際には仙台などは東京の支社経済に組み込まれてしまい、地元の資本は衰退してしまった。
維新といい、自由経済といい、つまるところは勝たねばならぬのである。勝つためには、あまり素朴で人が好いのも難しいのだ。しかし、嫌なやつが勝つと、当たり前だが嫌な世の中ができるものだ。
今の世の中がこうなってしまったのは、嫌な奴が勝ち続けたためであろうと思っている。できれば「良いやつ」が、たくさん勝ってもらえる世の中であればと心から願っている。