Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

青鉛筆の女

「青鉛筆の女」ゴードン・マカルパイン。

 

さきの大戦で、米国で日本人は日系人収容所に入れられた。いわゆる日本人だけではなくて、日系2世でつまり「アメリカ人」であるはずの日系人も、である。もう一つ付け加えておきたいが、当時の朝鮮人は日本統治下であるので国籍上「日本人」だったわけだが、彼らは収容所には入らなくて済んだ。つまり、日本人の血を引いている人だけが、国籍を問わずに収容されたのである。血統を理由としているのだから、明確にアパルトヘイト政策であり、今世紀に至って米国が謝罪するという結果になった。すべての元凶は差別主義者のルーズベルトにあるわけですが、それでも、今に至るまで彼は米国人が尊敬する最も偉大な大統領1位の座は不動であります(苦笑)本音とタテマエ。どこの国でも、ありがちですなあ。

 

閑話休題

この小説は、そんな第2次大戦の日米開戦前日からスタートする。そこで、3つのストーリーラインが描かれる。

1つめは、「改訂版」と題された、日系人が書いた日系米国人が自分の妻を射殺した犯人を追う探偵小説。

2つめが、この小説を読んだ出版社の副編集長による手紙。手紙の中で、副編集長は、小説を1パラグラフごとに読んでは改稿の指示を出す。例えば、「改訂版」では日系人が主人公だが、真珠湾で日米開戦した今となっては、日系人が主人公の作品では売れないから、主人公を同じ東洋人でも朝鮮人に変えて、私立探偵はやめて米国のために戦うスパイのヒーロー物にしろ、みたいな指示である。

3つめが、副編集長の指示を反映して書き直された「オーキッドと秘密工作員」というタイトルのスパイが活躍するフィクション。

この3つのテキストが1パラグラフごとに進んでいく構造なのだ。

そして、この3つのテキスト自体が、小説の舞台と同じ日米開戦下で書かれて進んでいく。この小説を執筆した小説家自身が、やがて日系人収容所に収容され、やがて収容所から出る唯一の方法、すなわち日系人部隊に志願して兵隊となり、やがて戦死するまで、、、最後に、物語はこの服編集長の驚愕の手紙で終わる。

いわば、全体がメタ小説で出来上がっているのだが、それらのフィクションを通して、実は当時の日系人がどういう扱いを受けたのかを浮き彫りにする効果が出ているのだ。

これはミステリの体裁をとった純文学作品であるし、米国の「正義」に対する厳しい指弾の書でもある。

 

評価は☆☆。

読んで損はないし、なぜ米国が今になって戦時中のことを反省しているのか、その理由もなんとなく理解ができる。私は日本人なので、重い読後感がのこるが、もしも日系米国人であれば、さらに重いものを感じるだろうと思う。

 

従軍慰安婦問題もそうなのだが、過去にあったことを現在の目線で、リアルタイムであるかのように謝れという議論は、およそばかげている。そういう線での決着は、すでに終わっているからだ。

ただ、現在の尺度に照らして、当時の人権(ほかに言いようもないので)状況がいかに不適切であったかと考えることは、過去ではなくて、今を考えるうえで重要である。

たとえば、今のイスラエルのように、過去に民族浄化を受けたからといって、現在にそれを繰り返すような愚行は、やってはならないものだ。過去の裁きは終わっており、それを今どう考えるかが大事なのであって、過去は何をやってもよい免罪符ではないと私は思う。あれじゃあ、虐待を受けて育ったガキが長じてまた自分の子供を虐待する図と変わらない。

過去は変えられないので、現在を変えるしかないと私は思う。