Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

これさえ知っておけば、小説は簡単に書けます。

「これさえ知っておけば、小説は簡単に書けます。」中村 航。

 

斯界で大評判の本書なのである。私も、さっそく読んでみた。一時期、新書ばかり読み漁っていたが、すでにネタは出尽くして、大して面白いものが出ないので、最近は買っていない。久々に新書を買った。

 

著者は、芝浦工大卒の理系出身で小説を書きだした人であり、本人も青春小説やラノベあたりを主戦場にしておられるかたわら、大学で「小説の書き方」という授業を10年以上やって、プロ作家も何人も輩出している。その講座のエッセンスをまとめたのが本書である。

小説を書く時のテクニックが、まさに!実践的に網羅されているのである。これには驚嘆した。なるほど、理系出身だから、ものごとをきちんと体系的にとらえることに成功しているのだな。

ストーリーラインの作り方で、現在と過去のストーリーをグラフで書き、その交点がクライマックスである、というような説明は「なるほど!」である。

評価は☆☆☆。

本書については、文句なく最上級の賛辞を贈りたいと思う。

 

本書が素晴らしいのは、小説の書き方だけでなく、すぐれた「読み方」ガイドにもなっている点である。

私は、いわゆるプロデビュー前のアマチュア作家の原稿を、何度か読んだことがある。悪くないな、、、と思う作品でも、なにかイマイチ、感動しないのはなぜだろうか?と思っていた。プロ作家の作品ではないな、とは分かるのだが、どうしてなのか?は分からなかったわけだ。それが、本書を読んでその疑問が氷解した。

自分が「ペルソナ=想定した読者」から外れていた場合は当たり前だが、そのペルソナが揺らいでいる場合、あるいはストーリーラインが単に「現在」しかない場合、日常から非日常の旅がない場合、文書の問題では段落にトピックセンテンスがない場合、文章表現が紋切り型で、比喩や特に「転」がない場合、、、まさにピタリなのである。ああそうか、と膝を30回くらい(大げさかな)たたいたものであった。

 

特に刮目したのは「成長は最高のエンターテイメント」ということである。もっとも典型的なストーリーラインでは、主人公が日常から非日常(なにか変わった出来事)に遭遇する。それが「旅」である。「旅」から帰ってくると、主人公はなにかしらの「変化」をしている。楽しい経験や苦い経験があるわけだが、それらの「非日常」を経験したことで主人公が変化することを「成長」と呼ぶわけだが、読者はそれで感動するというのである。なぜか?それは、人間が石器時代から「経験を経て変化する」ことで「成長」してきて、そのおかげで生き延びてきたという歴史があるからだ。つまり「成長」で感動するのは、人間の本性なのだ、ということである。

そう思うと、アマチュア作家の作品では、往々にして「成長」がないのだ。旅に行きっぱなしで帰ってこない話とか(苦笑)スーパーヒーローみたいなのがいると、そういう話になりやすいのだが。ところが、例えばミステリでいうと、あの高木彬光が作った天才探偵神津恭介でさえも、事件のあとには(往々にして、鮮やかな解決にもかかわらず、苦い経験をして)成長しているのである。

 

さて。では、これで、私も小説が書けるか?という話ですが。。。

ううーむ、、、、そいつばかりは、ねえ(苦笑)

どんなに下手くそで、出来が悪くても、長編小説をモノにする人は、たぶんこういうテクニック論とは別に、何かがあるんではないか、、、と思ったりもするんですねえ。