Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

戦略がすべて

「戦略がすべて」瀧本哲史。

刺激的なタイトルに惹かれて購入。
なかなか面白い読み物であった。
主に、企業のマーケティングにおいて「戦略」がどのように考えられているか、平易に解説している。

冒頭はAKB48の話から始まる。
人材ビジネスの典型だ。
芸能人というビジネスの問題は「誰が当たるか予測不可能」ということだ。
よって、とりあえず有望そうな子を片っ端からデビューさせて、誰かが当たるのを祈るというのが普通である。
さらに、当たったあとも、生身の人間の商売であるので、稼働率に限界がある。
寝る暇もなくこき使って、それでも売上はそこで止まるからである。芸能人だって1日24時間が上限には違いない。
さらに、それでキャリアを積んでくると、今度は「ギャラを上げろ」「独立したい」と言い出す。
ある程度は妥協しないと仕方がないので、これも収益性を損なう。

ところが、AKB48のビジネスモデルは、これらの諸問題を解決する「プラットフォーム型」である。
AKBというパッケージで、とりあえず沢山デビューさせ、誰かが当たるのを待つのは一緒である。
しかし、その後は、複数のメンバーからなるグループであるから「AKB」という冠のもとに、一度に多くの番組にメンバーを分散して出演させることが可能なので、稼働率が上がる。
一人のスターにかかる負担を減らせるのである。
しかも、ギャラ上げや独立(卒業)にも強い。
言うことを聞かなくなったら「卒業」させてしまう。本人たちも「AKB」というブランドがあってはじめて自分が売れることをわかっているので、ある程度はコントロールができる。
そして、メンバーを入れ替えながら、次の当たりを待つことで、グループ自体の寿命も伸ばせる。

いわば、一人のスターを売るのではなく、AKBというプラットフォームで各メンバーに活動してもらうという「プラットフォーム型ビジネス」であって、googleやアマゾンと同じだろう、というわけである。
この喩えは秀逸である。

本書は、このような話が数多く語られている。
面白い視点である。
評価は☆☆。


ところで、AI時代に対抗する編集者というので、人間とAIの共同活動によってAI以上の成果を出せる一部のプロフェッショナルに仕事が集中するだろう、という予測がある。
今までの「多産多死」型の編集者はいなくなるだろう、というのである。
実は、私は編集者も冒頭の芸能人と同じではないか、と思う。
どの編集者が「当たる」かなんて、まったく予測不能ではないかな。
どこかの作家と組んで、誰かがヒットを出す。それは単に確率の問題だと思う。素晴らしい編集者が必ずアタリを引けるなら、著者の予測どおりだと思うが、実際はそうではあるまい。
コンテンツビジネスというのは、結局、売ってみなきゃわからんだろうと思う。

もしも、既存の「そこそこ売れているコンテンツ」を適当にまとめて売るなら(予測可能なビジネス)AIのほうが圧倒的に有利である。
予測可能性の高さとAIの活用余地は比例する。AIの本質がビッグデータであれば、当然の話である。

つまり、人間の仕事として残っているのは、予測可能性が低いこと、つまり「愚かな」賭けをすることにしかなくなるのではないか。
愚行こそ、人類が行うべき最後の仕事であろうと思うのである。

ただ、人間の社会で問題なのは、何度も愚行ができないことである。
日本なんか、一回で終わりという雰囲気すらあるからねえ。
テキトーにゆるいほうが、実は世の中が発展するのではないか、などと思うのですなあ。