Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

ヘミングウェイごっこ

ヘミングウェイごっこジョー・ホールドマン

主人公のベアドは、ヘミングウェイが専門の大学教員である。
バーで飲んでいるときに、怪しい男に話しかけられる。
男は、ベアドに「ヘミングウェイの贋作をでっち上げて大金を稼ごう」という儲け話を持ちかける。男は詐欺師であった。
ベアドは詐欺に乗るつもりはなかったが、かねてからヘミングウェイパスティーシュ(パロディ)を書きたいと考えていた。
そこで、エイプリルフールに「失われたヘミングウェイ原稿を発見」という書物を上梓することを考えつく。
実際にヘミングウェイには「原稿紛失事件」があったからである。
それをネタに、エイプリルフールの冗談にしようと考えたわけである。
そして、ヘミングウェイが使っていたのと同じ機種の古いタイプライターを買って、友人から送られたアブサンを飲む。
すると、なんと眼前にヘミングウェイが現れた。
そのヘミングウェイの正体は時間パトロールであった。
ベアドがヘミングウェイのパロディを発表することで未来が変わってしまう、というのである。
時間パトロールヘミングウェイはベアドに執筆を断念させようとするが、それでもベアドが諦めないとみるや、彼を心臓麻痺で殺してしまう。
時間パトロールは自由に相手を病死させることができるのである。
死んだはずのベアドは、気がつくとそっくりの宇宙に転生していた。
細部が違うのだが、おおむね、同じような出来事が起きてきた宇宙である。(平行宇宙論
ここでもベアドは同じようにヘミングウェイのパロディを書こうとしている。
また時間パトロールがでてきて、同じように執筆を断念させようとするが、ベアドは断る。
すると、またも病死(今度はガンだ)させられてしまう。
気がつくと、またベアドは似たような世界に転生しており、また時間パトロールが現れて、、、という次第。
同じようなで微妙に違う世界が繰り返される。
何度同じことを繰り返しても執筆を諦めないベアドに時間パトロールは音をあげて、ついにヘミングウェイの原稿消失事件の時間に行くことを条件に執筆を諦めるという交渉が行われた。
そして、ベアドはヘミングウェイが原稿を消失したという問題の場面を目撃する。
原稿のカバンを持ち去った人物は、意外な人間であった。。。


本書の中に登場するヘミングウェイのパロディが面白い。
ヘミングウェイの文体そっくりなのである。(これは訳者が頑張って、日本語版ヘミングウェイの文体にそっくりにしてある)
英語が読める人なら、英語のタイプの打ち方までそっくりな原稿がみられるようになっている。
(わざわざパロディ原稿のコピーページが掲載してある)
ヘミングウェイ好きなら抱腹絶倒するのではあるまいか。

作品そのものは、時間SFとしても純粋に面白い作品である。
しかし、さすがにヘミングウェイを一冊も読んでいないと面白さは半減すると思う。
評価は☆というところかな。

パロディというやつは、もとの作品が偉大であればあるほど、面白いものである。
だって、もとがわからなければ、面白さを感じようがないからである。
筒井康隆の「日本以外全部沈没」が面白いのは、ひとえに小松左京の「日本沈没」が面白いからなのだ。
そう思うと、パロディ自体が偉大な作品へのオマージュである、という言い方も理解できるというものである。
最近はなんでもかんでも「パクリだ」といって騒ぎ立てる風潮があるようですが、パクられる作品は偉大なのである。
オリジナルだと偽るのは論外ですが、パロディについては、もっと楽しんで見てもいいんじゃないかな、などと思ったりもするのですなあ。