Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

原潜、氷海に潜行せよ

「原潜、氷海に潜行せよ」ジョー・バフ。

海洋アクション小説の中で、潜水艦ものって少ないほうだと思う。青い海も白い空もない。ただただ潜って、相手の裏をかいて魚雷を打ち合う。だいたい、沈没だって、潜水艦の沈没は悲惨なのだ。だんだん沈降していって、圧壊震度に達したところでぐしゃん。軍艦のように、大音響と水しぶき、なんてないし、命からがら救命ボートで脱出もない。全滅。悲惨である。

で、その潜水艦のなかで、最新の原潜同士の手に汗に握る戦いを描いた小説である。舞台は近未来、ドイツと南アフリカが「枢軸国」を結成、はやい話が「人種差別主義者」による政府という「わかりやすい仇役」である。対する連合国だが、米国と「その他」。ちなみに、中国もロシアも「中立」で、日本は本書中で「核武装し中立」(当然、中国とロシアは猛烈非難だが、まあ、国際的には仕方ないなぁ、という感じで物語りは進行してしまう。中国とロシアに、核武装を非難する権利があるのか?といえば、たしかにね)
フランスは、例によってドイツ相手にコロリとやられており、南アの原潜はフランスの鹵獲品、搭載兵器は金に目がくらんだロシアが売ったという設定。

ホルスト、フラー両館長の知恵比べが面白い。相手の出方を予測し、裏をかいて優位に立とうとする。南ア軍のホルストは、太平洋諸島で核を爆発させ、一気に太平洋諸国の緊張は高まる。この情勢のなか、日本が核武装を宣言「自衛のためにあらゆる手段をとる」と表明。
そのままホルストを太平洋で跋扈させるわけにいかないフラーは、南氷洋で対決となる。連合軍は、もしもホルストの指揮する原潜「フォールトレッカー」を撃沈できない場合、南極のロス氷棚にSLBMを発射することを決定。24時間以内の決着をつけ、核戦争の危機を回避すべく、フラー指揮する「チャレンジャー」はフォールトレッカーとの対決に赴く。。。

評価は☆。上質のエンターテインメントだねえ。

潜水艦同士の戦いって、本当に地味なテーマを、よくぞここまで面白く書けるもんだと感心。そういえば、最近まで「仮想戦記」なぞというばかげたマガジンがぽこぽこ売れていたようだが、ま、あれとは比較になりゃしません。軍事技術に関する記述の正確さ、リアルな潜水艦乗りたちの生態の描写。仮想戦記は「マガジン」ですが、こいつは立派な小説だからねえ。

なにもかも忘れて空想を楽しむ、という時間のすごし方がわかる人には、大推薦。