Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

ダメコン

長期戦を覚悟せざるを得ない福島原発であるが、一連の経緯を見聞しながら、考えることがある。「ダメコン」の話である。
私は、原発技術にはまったくの門外漢なので、まあ素人の思いつき、である。

一連のニュースで気になるのは、頻繁に「想定外」というセリフが出てくることである。こんな事態は想定外だ、だから仕方ない、そういう論理が見え隠れする。本当に想定できないほどのものだったのか、誰も検証していないように思う。今は、現場を落ち着かせることが先決だから、そういう追求が後回しになるのは仕方がない。

ただ、その「想定外」はどうなのか?ちょっと気になるのである。

大東亜戦争のときの話である。
日米は太平洋で激突したのだが、同じように撃ち合って、日本の艦船はよく沈没した。ことに空母において深刻で、最新鋭空母の大鳳は魚雷一本で爆発、大和型戦艦を改造した信濃は初航海で魚雷4本で横転し沈没してしまった。戦後に、これらの原因調査で、日米の建艦思想の違いが明らかになった。それは「ダメコン」の有無、だった。

日本の艦船には、中央隔壁があった。
たらいを考えて欲しいのだが、そのたらいに穴を開ける。すると、たらいは沈んでしまう。そこで、たらいの中に区切り(区画)を入れる。すると、その区画は水没しても、他の区画に水は入らないから、浮いている。ここまでは、日米ともに同じ設計である。
日本の場合、その区画は船体を縦横に区切っている。アメリカは、横だけ区切っている。
船腹に穴が空くと、日本の空母の場合、右なら右の区画だけが浸水する。すると、艦が傾く。同じだけ、左側に注水する。すると、喫水線が下がるが、艦は平衡を取り戻す。こうして、沈没を防ぐ。
アメリカの場合、船体の右に穴が空くと、先に述べた通り、区画は横だけ区切っているから、その部分の船体が左右ともに浸水してしまう。しかし、反対舷に注水する必要はなく、喫水が下がるだけである。
アメリカの空母は、事実、かなりの日本機の攻撃を受けながら、よろよろになっても沈没せず、曳航して寄港し修理したものがたくさんあった。サラトガエンタープライズ、ハンコック。アメリカ空母は実にタフだった。

日本の空母は、大鳳はたった一本の魚雷がもとでガソリンのガスが漏洩し艦内に充満、引火爆発して沈没。同じ現象がアメリカ空母に起きてもガスは充満しない。アメリカの空母は、格納庫がオープンハンガー(開放型)だった。仮に爆弾を落とされても、爆風が横に逃げるため、船体に被害が少ないようになっていた。
信濃は、魚雷のため船体が浸水、反対舷に注水しようとしたが、電気系統がやられてポンプが動かず、横転し沈没したと言われる。アメリカ空母は、最初からポンプがなくても平衡に浸水するようになっているから横転しない。

戦後のアメリカが指摘したのは、日本の艦船にダメコンがないことだった。ダメコン=ダメージコントロール、であある。そもそも、軍艦は必ずダメージを受ける、ダメージを避けるわけにいかない、だからダメージを受けた場合にコントロール(制御)するという思想だった。
日本の艦船は、魚雷や爆弾を食らったら、それは装甲で防ぐ、となっていた。装甲が破れたらどうなるか、電気系統が止まればどうなるか、そういう想定がなかった。
そういうことを突き詰めて考えるのは敗北主義だと言われた時代だから、これらの声はかき消されたのである。
しかし、想定していない事態であろうがなかろうが、システムであれば、必ず障害を起こすし停止するものである。それを「想定外」ではすまされない。

当時の日本の造艦技術者はおそらく言っただろう「そこまでの攻撃を受けることは、想定外である」と。
そして、その想定の深さが、彼我の損害の明暗を分ける結果となった。

メコンというのは、いわば「敗北の哲学」である。
考えに考え、あらん限りの技術を結集して軍艦をつくる、しかし、それでも「やられた!」となる。
その「やられた!」を、あらかじめ考え抜く。
自分がつくったシステムは優秀だ、自信もある、しかしそれでも「ダメになることがある」
ダメはダメージである。
ダメを飲み込む度量が、最後には求められる。

「五重の安全策」という「浮沈戦艦」によりかかった末の結果じゃなかろうか、などと素人目に思う。
少なくとも、津波による電源停止までは、想定しなければならなかったのではないか、と考える。

もちろん、あとからの結果論ではなんとでも言えるわけで。そういうものではない、とは思う。
ただ、想定外は、本当に想定「不可能」だったのか、それとも「慢心」だったのか、それは後でしっかりと検証する必要があるだろうと思う。

今では、長期戦になってしまった封じ込め作業の成功をただ祈るばかりである。