Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

身動きつかない政策

中小向け返済猶予(モラトリアム)法が1年、延長になったようだ。
例の亀井元金融相が制定した法律である。
中小企業の足元の景気が厳しい、という認識からであろう。

たしかに、政府の認識は間違っていない。
震災で需要は冷え込み、特に設備投資関連は壊滅した状況である。外食産業の落ち込みぶりが話題になっているが、そればかりではないのである。

ただし、この処方は、果たして効果があるかどうか、疑問である。
そもそも、返済猶予法が、中小企業の役に立っているかどうかは、分からない。

法律で、一定の要件を満たせばリスケできる。これは、ほぼ自動的にリスケできるわけである。
しかし、あくまで銀行にとっては、それはリスケ債権である。
であるから、リスケ中は基本的に追い貸しできない。
中小企業は、返済猶予分の資金を目先の資金にすることになる。

しかし、現状の景気の悪化は、需要不足=売上不振が大きいわけである。
ここで、いくら返済猶予しても、立ち直らない企業は多いであろう。
むしろ、返済猶予よりも、金利をとっても資金供給したほうが、全体の景況は上向くのではないかと思う。かつて、小渕内閣がとった政策である。
「やりたいが金がない」が、現政権の正直な判断なのだろうなあ。

売り上げ減から赤字経営に陥った企業は、経費削減をするか、生産効率の向上、あるいは売上増を目指すしかない。
経費削減といえばリストラになる。これは、市場全体がまた縮小してしまう。ふたたびデフレスパイラルである。従って、一企業の判断としては良いが、政策的にこちらに誘導してはいけない。
すると、次は生産コスト削減である。設備投資産業が潤うので、これは効果がある。ところが、今の日本経済は需要不足だから、より大量に生産しても売り先がない。安価にするなら、海外移転したほうが早いし効果がある。やはり一企業としては良いが、まさか政府が海外移転を推進して補助金を出すわけにはいかないだろう。これもダメである。

とすると、最後は売上増である。売上増を目指すには、マーケティングミックスで考えて
1)既存顧客に、新商品を売り込む
2)既存商品を、別分野の顧客に売り込む
3)新商品を新規顧客に売り込む
4)広告費の増加
となる。
1)は新商品開発、2)は販路開拓、3)は新規事業となる。4)は市場全体が伸びていなければ、効果が薄いから、今は期待薄ではあるが、みんなが広告を控えていれば効果は増える。
おわかりのように、どの施策をとっても、多少のまとまった資金が必要である。
つまり、政策的には、返済猶予よりも資金手当てのほうが必要な局面のはずなのである。

分かりやすく言えば、返済猶予は戦場でいえば籠城戦である。じっと我慢していれば、そのうち援助がやってくる(また景気がよくなる)。そういう場面であれば良いのである。
しかし、今の景気は、おそらく循環ではなくて、国際的な産業構造の変化(というよりは、資本主義そのもののパラダイム変化)を反映している。篭城しても、助けはこないと思うべきである。
撃って出るほかなく、そのためには戦費が必要なのである。

調べてみると良いと思うが、モラトリアム法でリスケした企業は、さしたる改善もみられないまま、またリスケするであろう。破綻の速度がゆっくりになっているだけで、基本は変わらないだろう。

私は、極端なレッセフェール論者がいうように「早くつぶしたほうが経済の活性化」だとまでは言わない。破綻した人たちは、再起しなければならない。皆がいっせいに壊滅しては、再起もできない。大不況のさなかでは、再起は不可能だからだ。また討ち死にが増える。だから破綻はなるべく、分散させたほうがいいのである。
しかし、今回のモラトリアム法の延長は、単に漫然と延長したように思われる。政策議論を尽くした後が感じられない。
ただ景気が悪いから延長しましたでは、今後の好転も望めない。
いっそ、「有理な破綻処理法」をつくったほうがマシである。
個人保証制度という世界に名高い制度がはびこる日本金融界では、ダメな会社でも延命している例が多いのだ。審査能力がない金融機関を先に破綻させるべきなのだが、それもできない。
よって、銀行は低金利、ばかみたいな利息で預金を集めて、じゃぶじゃぶ出てくる国債を買えば黒字である。その銀行は、法律でリスケしてるわけだ。
日本の国債が国内で消化されているのは事実だが、外国にとっては低金利すぎて魅力がないだけのことである。誰も買わない。

日本人が国債を買えなくなるときが、この国の経済の終わりの始まりである。
それまでに、経済を立て直さないといけない。
どういう理念で望むのか、そういう方針はまったく今の政府から感じられない。
増税したいだけだ。
二言目には金がないという。

もう誰がやっても詰んでいる、身動きつかない状態であろう。
ただし、希望はゼロではない。まだ間に合う。
今の政府では、単にその希望が持てないだけの話なのである。